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前成説とは?わかりやすく5分で解説

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前成説とは、かつて信じられていた生物の発生においてその構造があらかじめ形作られているという説のこと

簡単に言うと、精子もしくは卵(卵子)の中にミニチュア版の生物の原型が存在し、それが子供になるというもの。

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背景

生物の発生については、古代ギリシア時代から2つの考えが存在していた。それは前成説と後成説と呼ばれる。前成説はあらかじめ形作られた極小の原型が成長するという考えのことで、後成説は原形のない状態から徐々に形作られるという考えのこと

たとえば古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、経血が固まり子供になると考え後成説の立場をとった。

前成説の種類

前成説には精原説と卵原説がある。

精原説

精原説とは、精子の中に生命の原型が存在するという説のこと。1677年、オランダの科学者レーウェンフックらが精子を発見した。そこで、精子が生命の源という考えが生まれた。当時、社会的に女性よりも男性の方が優れているという考えがあった。

たとえば、旧約聖書には神の似姿としてアダムが創造され、アダムの肋骨からイブが創造されたとの記述がある。1694年、オランダの科学者ハルトゼーカーが精子を顕微鏡で観察し、精子の中に体育座りをした小人が入っていると主張し、精原説を支持した。

卵原説

卵原説とは、卵(卵子)の中に生命の原型が存在するという説のこと。1669年、オランダの生物学者スワンメルダムが、昆虫のさなぎの中に成虫の器官を確認し卵原説を支持した。当時、さなぎは卵と信じられていた。

1672年、イタリアの医学者マルピーギが、ニワトリの卵の中に成体の器官を確認し、卵原説を支持した。1745年、スイスの博物学者ボネが、アリマキ(アブラムシ)が雌のみで子供を産むこと(単為生殖)を確認し、卵原説を支持した。

前成説の問題点

前成説が正しいとすると、生物の原型の中にも将来生まれてくる生物の原型がマトリョーシカのように存在することになる。つまり、最初の生物はすべての子孫の原型を有している必要がある。これに対し、前成説支持者は特に疑問を抱かなかった。

しかし1744年、スイスの博物学者トランブレーが、水生生物のヒドラを断片に分けてもそれぞれが元の形に再生することを発見した。前成説では、あらかじめ器官が存在していると考えるため、この失った器官の再生をうまく説明できなかった

また、両親の特徴を受け継ぐ遺伝も説明できなかった。なぜなら精原説、卵原説のどちらも子供の構造が片親で決定されると考えるため。

発生学の誕生

1759年、ドイツの生理学者ヴォルフがニワトリの胚を顕微鏡で観察し、それぞれの器官が同時に現れない点、一度現れた器官が形を変えて別の器官になる点等から、生物の原型は存在しないと主張した。但し、この時点ではまだ前成説支持者も多かった。

1828年、ロシアの発生学者ベーアが胚葉説を唱えた。胚葉説とは、動物の発生において、まず胚がいくつかの細胞の塊(胚葉)に分かれ、それらが各器官を形作るという説のこと。これはヴォルフの考えを発展させたものといえる。

1888年、ドイツの生物学者ルーが、カエルの受精卵が2つの細胞に分裂した後(2細胞期)に片方を焼くと、残った細胞からは胚(発生初期の生物)の半身のみが形成されることを発見した。これは、あらかじめ構造が決定していると考える前成説を後押しした。

しかし1895年、ドイツの生物学者ドリーシュが、ウニの受精卵の2細胞期に細胞を分けて培養すると、どちらも完全な胚が形成されることを発見した。その後、カエルの受精卵でも焼いた細胞を除去すれば完全な胚が形成されることが明らかになった。

発生学の発展

1922年、ドイツの動物学者フォークトが、両生類の胚を局所的に染色することで特定の領域がどのような組織や器官になるかを追跡し(局所生体染色法)、胚の領域と組織や器官の関係を図で示した(原基分布図または予定運命図)

1924年、ドイツの生物学者シュペーマンが、胚の成長段階ごとに黒いイモリの将来神経になる胚の領域と白いイモリの将来表皮になる胚の領域を交換移植し、いつ細胞の運命が決定するのかを明らかにした

さらに彼は、特定の胚の領域(オーガナイザー)を移植すると、移植された側の組織が移植した組織に誘導され、移植前の運命と異なる新たな胚(二次胚)が形成されることを発見した。1935年、シュペーマンが胚発生における誘導作用の発見でノーベル賞を受賞した。

これら発生学の研究は、生物の発生の初期段階では細胞の運命が決定していないことを示し、前成説は完全に否定された。