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ロボトミーとは?わかりやすく5分で解説

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ロボトミーとは、ポルトガル神経科医モニスが考案した精神疾患治療のための前頭葉切截手術のこと

簡単に言うと、脳の一部を物理的に破壊し精神を安定させる手術。深刻な合併症の問題と抗精神病薬の登場により、現在では廃れた治療法。

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歴史

背景

18世紀以前、精神疾患の治療のため毒物や悪霊を体外に出すための瀉血や水責め、悪魔払い等が行われていた。その後、患者を回し続ける旋回椅子やマラリアに感染させるマラリア発熱療法、低血糖にさせ昏睡させるインスリンショック療法等が登場する。

このように、生体になんらかの刺激を与える治療法をショック療法という。ショック療法の中には一定の効果を示すものもあったが、依然精神疾患の原因は分からず不治の病とされていた

世界初の精神外科手術

1888年、スイスの精神科医ブルクハルトは精神疾患の原因が脳の特定の部位にあると考え、6人の攻撃性のある精神病患者に対し様々な脳の部位を切除した。彼は手術の結果を、2人がおとなしくなり、1人が改善後自殺、2人が変化なし、1人が死亡と記した。

この時同時にてんかん、運動麻痺、失語症等の合併症も確認された。1889年、彼はベルリン医学会議で結果を報告し、脳の神経系が入力、接続、出力の3つからなり、接続を物理的に断つことで入力、出力を傷つけずに精神疾患の病状を緩和できると主張した。

しかし医者の反応は悪く、1891年彼は精神外科手術の研究を終了した。

ロボトミーの着想

ポルトガル神経科医モニスは精神病患者にみられる、同じ思考を繰り返す強迫観念や同じ行為を繰り返す強迫行為の原因を、前頭葉の脳細胞接合部(シナプス)の不具合と考えた。これは、シナプスの異常により何度も信号伝達を繰り返してしまうというもの。

1935年夏、第2回国際神経学会議にてアメリカの神経生理学者フルトンが、チンパンジー前頭葉を切除すると性格が穏やかになったと発表した。これを受けモニスは、前頭葉視床をつなぐ神経線維の束(白質)を破壊する手術を着想した。

ロボトミーの確立

1935年11月、モニスは精神病患者の前頭葉視床を分断するため、頭蓋骨側面両側に穴を開け白質にアルコールを注射した。結果、神経線維は破壊され患者の症状に改善がみられたことから、1936年2月までの間に合計20人を手術した。

彼は手術の結果を7名が改善、7名がやや改善、6名が変化なしと発表した。また白質の破壊方法は、初期のアルコール注射からメス(ロイコトーム)による切断に変更された。彼はこの術式を、白質を表すロイコと切除を表すトミーからロイコトミーと名付けた。

この時同時に嘔吐、失禁、下痢、眼瞼下垂、眼振、無気力、無関心、見当識障害等の合併症も確認されたが、彼はあくまで一時的なものと主張した。それよりも、不治の病とされていた精神疾患が外科手術で治るというニュースに世界が注目した

ロボトミーの発展

1936年9月、モニスの影響を受けたアメリカの精神科医フリーマンは、アメリカで初めてロイコトミーを行い症状の改善を確認した。その後彼は1942年までに約200件の手術を行い63%が改善、23%が変化なし、14%が悪化(重度の脱落症状や死亡)と発表した。

また彼は実験レベルで行われていたロイコトミーを標準化し、器官の一部分を表すロボ(葉)と切除を表すトミーからロボトミーと名付けた。1946年、フリーマンによって手術室と麻酔薬と外科医が不要で簡単にできるアイスピック・ロボトミーが開発された。

これは、電気ショックを脳に与えている間に、金属製の尖った器具を瞼の裏の眼球を覆う骨(眼窩)にあてハンマーで打ち抜き、そこから前頭葉を破壊するというもの。この方法は、戦争の影響もあり精神病患者が急増していたアメリカで積極的に採用された

ロボトミーの衰退

1949年、モニスがロボトミーの発見によりノーベル賞を受賞した。この頃には世界中でロボトミーが行われ、ローマ法王ピウス12世でさえも肯定していた。しかし同時に、人間性を失う合併症を引き起こすロボトミーに対して、批判の声も上がっていた

1952年、フランスの生化学者ラボリによって世界初の抗精神病薬クロルプロマジンが発見され、精神疾患に新たな治療法が生まれた。合併症の問題と代替療法の登場により、ロボトミーは1950年頃をピークに衰退していき、1970年代に世界中で禁止された。

ロボトミー殺人事件

1979年、日本で強制的にロボトミーを受けさせられた患者が、自分の自由を奪った執刀医の殺害を企て結果的に執刀医の妻と母親を殺害した。裁判で被告人は、ロボトミーの問題を理解しているなら無罪か死刑が妥当と訴えたが、無期懲役となった。