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分離脳とは?わかりやすく5分で解説

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分離脳とは、右脳と左脳の情報伝達を担う脳梁がない脳のこと

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背景

19世紀、脳の機能が部位ごとに分かれていると考える局在論と、全体で機能すると考える全体論が対立していた。1863年、フランスの外科医ブローカが言葉を理解するがうまく話せない障害(ブローカ失語)は、左脳の一部(ブローカ野)の損傷が原因と突き止めた。

1874年、ドイツの外科医ウェルニッケが、流暢に話せるが意味が通らない障害(ウェルニッケ失語)は、左脳の一部(ウェルニッケ野)の損傷が原因と突き止めた。これらの発見もあり局在論が優勢となり、ロボトミー等の脳神経外科手術の発展につながった。

このように脳の言語を扱う領域を言語野という。ちなみに左利きの人の3割ほどは言語野が右脳にあるといわれる。

脳梁離断術の誕生

1940年代、アメリカの外科医ワジネンらが投薬治療が困難なてんかん患者に対して、右脳と左脳の情報伝達を担う繊維(脳梁)を切断し、一定の効果を示した。このように脳梁がない脳を分離脳という。

当時ヒトにおいて、左半身は右脳、右半身は左脳で処理されること、また視界はそれぞれの目の右視野が左脳、左視野が右脳で処理されることが分かっていた。これは、神経が体を中心に交叉していることを意味し、前者を全交叉、後者を半交叉という。 

動物の分離脳実験

1950年代、アメリカの神経心理学者スペリーが分離脳ネコの実験を行った。実験ではネコの脳梁と、視神経の交叉を切り(左目は左脳、右目は右脳のみに繋がる)、右目をふさぎ左目(左脳)だけで図形を記憶させた。

その後、ネコの左目をふさぎ右目(右脳)だけ見えるようにした時、右脳が図形を記憶していないことを確認した。これは、視野と脳梁を操作することで右脳と左脳を独立して扱えることを意味する。

ヒトの分離脳実験

1960年以降、スペリーとその弟子でアメリカの神経心理学者ガザニガらが分離脳患者に対して様々な実験を行った。被験者の知能や言動は正常に見えるが、実験結果は興味深いものとなった。主な実験を以下に示す。

視覚実験

被験者にスクリーンの中心にあるマークを凝視させた。そこで、左右に離れて配置した電球を両方点滅させた。その後、被験者にどの電球が点滅したか質問すると、右の電球だけが点滅したと答えた。次に光った電球を指で指すように指示した。

すると、左右両方の電球を指した。この実験では、言語野が左脳にあるため脳梁が無いと左視野(右脳)の情報が言語化できないことが分かった。

触覚実験

被験者に見えないように右手にペンを置いた。その後、被験者に何を置いたか質問すると触覚を駆使してペンと答えることができた。次に、被験者に見えないように左手にペンを置いた。すると被験者は何が置かれたか分からないと答えた。

この実験では、言語野が左脳にあるため脳梁が無いと左手(右脳)の情報が言語化できないことが分かった。

複合実験

被験者の左視野(右脳)にだけ絵を見せた。 被験者は何が見えたか答えられない。そこで、被験者に絵と同じ物を触覚を頼りに左手で選ぶよう指示すると、選ぶことができた。また目を閉じて左手で絵と同じ物を書くよう指示すると、書くこともできた。

しかし被験者に、なぜその物を選んだのか、なぜその絵を描いたのか聞いても、分からないと答えた。この実験では、分離脳患者の右脳と左脳は独立して処理されることが分かった。

連想実験1

被験者の左視野(右脳)に雪景色、右視野(左脳)に鶏の足の絵を見せた。その後、見た絵に関係する絵を選ぶよう指示すると、左手でスコップ、右手で鶏を選んだ。そこで、被験者になぜスコップを選んだのか質問すると、鶏小屋で片付けに使用するためと答えた。

実際には、左手(右脳)は雪かきに使用するためにスコップを選択したと思われる。他には、被験者の左視野(右脳)に歩けと指示し、歩き出したときに何故歩いているか質問した。すると、被験者はのどが渇いたからと答えた。

この実験では、左脳は自身の行動を辻褄が合うように解釈することが分かった。

連想実験2

被験者に中身の見えない袋から、サルの果物を左手で選ぶよう指示した。すると被験者はバナナを選んだ。次にサンキスト(オレンジで有名なブランド)の果物を左手で選ぶよう指示した。すると被験者はオレンジを選んだ。

この実験では、右脳にも言語を理解する機能があることが分かった。

P.Sの実験

分離脳患者P.Sの左視野(右脳)にだけ、やりたい仕事は何かという質問を見せた。するとP.Sは左手でカーレースと書いた。しかし彼は普段製図工になりたいと言っていた。この違いは、物の好き嫌いの度合いを尋ねるといった他の質問でも確認された。

この実験では、右脳と左脳の意識が異なることが分かった。

その他 

1981年、スペリーが大脳半球の機能分化に関する研究でノーベル賞を受賞した。